Marugoto N2 – Lesson 30: Kokoro (The Heart)

Vocabulary

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WordMeaning
冷淡(れいたん)(な)cool
特色(とくしょく)characteristic
正当(せいとう)(名(な))just
付属(ふぞく)(する)(to) attach
(人(ひと)と)接(せっ)するcontack (a person)
差(さ)し出(だ)すto offer
眉(まゆ)eyebrow(s)
ひっそりquietly
まるで~ないas if not ~ at all
同情(どうじょう)sympathy

Grammar

Grammar


~もしない

Not even ~

◎ A strong expression of negation, saying 「それも~ない」.

1. あんなことを言(い)われるとは、思(おも)いもしなかった。
     I did not even expect him to say something like that.

2. 社長(しゃちょう)はよく見(み)もしないで、「全然(ぜんぜん)だめだ。もう一回(いっかい)、全部書(ぜんぶか)き直(なお)せ」と言(い)う。
     The president often does not even look at things before saying, "This isn't good at all. Write it all over again form the start."


~っこない

Could never ~

◎ A conversational expression emphasizing that something is not possible. Often used self - deprecatingly.

1. 無理(むり)です。私(わたし)なんかにはできっこありません。
     That is impossible. I could never do that.

2. 相手(あいて)は前回(ぜんかい)の優勝校(ゆうしょうこう)だよ。勝(か)てっこないって。
     We are against the school that won last time. I'm telling you there's no way we could win.

Reading

   普通(ふつう)の人間(にんげん)として、私(わたし)は女(おんな)に対(たい)して冷淡(れいたん)ではなかった。けれども、年(とし)の若い私の今まで経験(けいけん)してきた環境(かんきょう)からといって、私(わたし)はほとんど交際(こうさい)らしい交際(こうさい)をしたことがなかった。それが原因(げんいん)かどうかは疑問(ぎもん)だが、私(わたし)の興味(きょうみ)は、道(みち)で出会(であ)う知(し)りもしない女(おんな)に向(む)かって多(おお)く働(はたら)くだけであった。先生(せんせい)の奥(おく)さんには、この前玄関(まえげんかん)で会(あ)ったとき、美(うつく)しいと言う印象を受けた。それから会(あ)うたびに、同(おな)じ印象(いんしょう)を受(う)けないことはなかった。★しかし、それ以外(いがい)に、私(わたし)はこれと言(い)って特(とく)に奥(おく)さんについて語(かた)るべき何物も持たないような気がした。
   これは奥(おく)さんに特色(とくしょく)がないというよりも、特色(とくしょく)を示(しめ)す機会(きかい)が来(こ)なかったのだと解釈(かいしゃく)する方(ほう)が正当(せいとう)かもしれない。しかし、私(わたし)はいつでも先生(せんせい)に付属(ふぞく)した一部分(いちぶぶん)のような心持(こころも)ちで奥(おく)さんに接(せっ)していた。
   ある時(とき)、私(わたし)は先生(せんせい)のうちで酒(さけ)を飲(の)まされた。その時(とき)、奥(おく)さんが出(で)て来(き)て傍(そば)で酌(しゃく)をしてくれた。先生(せんせい)はいつもより愉快(ゆかい)そうに見(み)えた。奥(おく)さんに「お前(まえ)も一杯飲(いっぱいの)みなさい」といって、自分(じぶん)の飲(の)み干(ほ)した盃(さかずき)を差(さ)し出(だ)した。奥(おく)さんは「私(わたし)は・・・・・」と遠慮(えんりょ)しかけたあと、迷惑(めいわく)そうにそれを受(う)け取(と)った。奥(おく)さんはきれいな眉(まゆ)を寄(よ)せて、私(わたし)の半分(はんぶん)ばかり注(そそ)いであげた盃(さかずき)を、唇(くちびる)の先(さき)へ持(も)って行(い)った。奥(おく)さんと先生(せんせい)の間(あいだ)に下(した)のような会話(かいわ)が始(はじ)まった。
   「珍(めずら)しいこと。私に飲めとおっしゃったことはめったにないのにね」。
   ➀「お前(まえ)は嫌(きら)いだからさ。しかし、たまには飲(の)むといいよ。いい心持(こころもち)になるよ」。
   「ちっともならないわ。苦(くる)しいばかりで。でも、あなたは大変(たいへん)御(ご)愉快(ゆかい)そうね、少(すこ)しお酒(さけ)を召(め)し上(あ)がると」。
   「時(とき)によると、たいへん愉快(ゆかい)になる。しかし、いつでもと言うわけにはいかない」。
   「今夜(こんや)はいかがです」。
   「今夜(こんや)はいい心持(こころも)ちだね」。
   「これから毎晩少(まいばんすこ)しずつ召(め)し上(うえ)がるといいですよ」。
   「そうは行(い)かない」。
   「召(め)し上(あ)がってくださいよ。そのほうが寂しくなくっていいから」。
   先生(せんせい)のうちは夫婦(ふうふ)と下女(げじょ)だけであった。行くたびにたいていはひっそりとしていた。高(たか)い笑(わら)い声(こえ)などの聞(き)こえるようなことはまるでなかった。ある時(とき)は、うちの中(なか)にいる物(もの)は先生(せんせい)と私(わたし)だけのような気(き)がした。
   「子供(こども)でもいるといいんですがね」と奥(おく)さんは私(わたし)の方(ほう)を向(む)いて言(い)った。私(わたし)は「そうですね」と答(こた)えた。しかし、②私(わたし)の心(こころ)には何(なん)の同情(どうじょう)も起(お)こらなかった。子供(こども)を持(も)ったことのないその時(とき)の私(わたし)は、子供(こども)をただうるさいもののように考(かんが)えていた。
   「一人(ひとり)もらってやろうか」と先生(せんせい)が言(い)った。
   「もらいっ子(こ)じゃ、ねえ、あなた」と、奥(おく)さんはまた私(わたし)の方(ほう)を向(む)いた。
   「子(こ)どもはいつまでたったってできっこないよ」と先生(せんせい)が言(い)った。
   奥(おく)さんは黙(だま)っていた。「なぜです」と私(わたし)が代(か)わりに聞(き)いた時(とき)、先生(せんせい)は「天罰(てんばつ)だからさ」と言(い)って高(たか)く笑(わら)った。

(夏目漱石(なつめそうせき))『こころ』より)

CHECK
Q1 「お前(まえ)は嫌(きら)いだからさ」とあるが、どういう意味(いみ)ですか。
Q2 「私(わたし)の心(こころ)には何(なん)の同情(どうじょう)も起(お)こらなかった」のはなぜですか。

☞ Translation
   
普通(ふつう)の人間(にんげん)として、私(わたし)は女(おんな)に対(たい)して冷淡(れいたん)ではなかった。
I was never uninterested in women, just as one might expect .
けれども、年(とし)の若い私の今まで経験(けいけん)してきた環境(かんきょう)からといって、私(わたし)はほとんど交際(こうさい)らしい交際(こうさい)をしたことがなかった。
But I had barely had any true relationships with women in my youth.
それが原因(げんいん)かどうかは疑問(ぎもん)だが、私(わたし)の興味(きょうみ)は、道(みち)で出会(であ)う知(し)りもしない女(おんな)に向(む)かって多(おお)く働(はたら)くだけであった。
It's hard to say if that was the reason why, but my interests were mostly limited to women I would meet on the street.
先生(せんせい)の奥(おく)さんには、この前玄関(まえげんかん)で会(あ)ったとき、美(うつく)しいと言う印象を受けた。
When I met Sensei's wife in the front of their home, I was struck by her beauty.
それから会(あ)うたびに、同(おな)じ印象(いんしょう)を受(う)けないことはなかった。
I felt the same way every time we met after that, as well.
★しかし、それ以外(いがい)に、私(わたし)はこれと言(い)って特(とく)に奥(おく)さんについて語(かた)るべき何物も持たないような気がした。
But it also felt as though there was nothing else in particular to say about her.

   
これは奥(おく)さんに特色(とくしょく)がないというよりも、特色(とくしょく)を示(しめ)す機会(きかい)が来(こ)なかったのだと解釈(かいしゃく)する方(ほう)が正当(せいとう)かもしれない。
This is not to say that there was nothing unique about her, but perhaps that she never had an opportunity to show what made her special.
しかし、私(わたし)はいつでも先生(せんせい)に付属(ふぞく)した一部分(いちぶぶん)のような心持(こころも)ちで奥(おく)さんに接(せっ)していた。
Yet I always approached her as if she was nothing more than a part of Sensei.

   
ある時(とき)、私(わたし)は先生(せんせい)のうちで酒(さけ)を飲(の)まされた。
One time, I was invited to drink at sensei's home.
その時(とき)、奥(おく)さんが出(で)て来(き)て傍(そば)で酌(しゃく)をしてくれた。
His wife came and served us.
先生(せんせい)はいつもより愉快(ゆかい)そうに見(み)えた。
With her nearby, Sensei seemed happi-er than usual.
奥(おく)さんに「お前(まえ)も一杯飲(いっぱいの)みなさい」といって、自分(じぶん)の飲(の)み干(ほ)した盃(さかずき)を差(さ)し出(だ)した。
He told his wife to join us and handed her his empty cup.
奥(おく)さんは「私(わたし)は・・・・・」と遠慮(えんりょ)しかけたあと、迷惑(めいわく)そうにそれを受(う)け取(と)った。
She first hesitated before eventually taking it, seeming somewhat bothered.
奥(おく)さんはきれいな眉(まゆ)を寄(よ)せて、私(わたし)の半分(はんぶん)ばかり注(そそ)いであげた盃(さかずき)を、唇(くちびる)の先(さき)へ持(も)って行(い)った。
She knit her beautiful brows as she took the cup, this one only about half-filled, to her lips.
奥(おく)さんと先生(せんせい)の間(あいだ)に下(した)のような会話(かいわ)が始(はじ)まった。
A conversation began between her and Sensei.

   
「珍(めずら)しいこと。
"How unlike you.
私に飲めとおっしゃったことはめったにないのにね」。
It's quite uncommon for you to ask me to drink".

   
➀「お前(まえ)は嫌(きら)いだからさ。
"That's because you hate sake.
しかし、たまには飲(の)むといいよ。
But it's good to drink every now and then.
いい心持(こころもち)になるよ」。
It puts you in a good mood".

   
「ちっともならないわ。
"I wouldn't say so at all.
苦(くる)しいばかりで。
It's nothing but unpleasant for me.
でも、あなたは大変(たいへん)御(ご)愉快(ゆかい)そうね、少(すこ)しお酒(さけ)を召(め)し上(あ)がると」。
But you do seem so happy when you have a bit to drink".

   
「時(とき)によると、たいへん愉快(ゆかい)になる。
"Yes, I do at times.
しかし、いつでもと言うわけにはいかない」。
But that's not always the case."

   
「今夜(こんや)はいかがです」。
"What a bout tonight?"

   
「今夜(こんや)はいい心持(こころも)ちだね」。
"I do feel good tonight."

   
「これから毎晩少(まいばんすこ)しずつ召(め)し上(うえ)がるといいですよ」。
"You ought to start drinking just a bit each night".

   
「そうは行(い)かない」。
"That I cannot do".

   
「召(め)し上(あ)がってくださいよ。
"Please.
そのほうが寂しくなくっていいから」。
Things will be less lonely that way".

   
先生(せんせい)のうちは夫婦(ふうふ)と下女(げじょ)だけであった。
Aside from Sensei and his wife, only a maid lived at their home.
行くたびにたいていはひっそりとしていた。
It was usually quiet there.
高(たか)い笑(わら)い声(こえ)などの聞(き)こえるようなことはまるでなかった。
And you would never expect to hear a laugh or a shout of joy.
ある時(とき)は、うちの中(なか)にいる物(もの)は先生(せんせい)と私(わたし)だけのような気(き)がした。
It felt like at times, Sensei and I were the only ones there.

   
「子供(こども)でもいるといいんですがね」と奥(おく)さんは私(わたし)の方(ほう)を向(む)いて言(い)った。
"It would be nice if we had a child" his wife said to me.
私(わたし)は「そうですね」と答(こた)えた。
Though I told her I agreed.
しかし、②私(わたし)の心(こころ)には何(なん)の同情(どうじょう)も起(お)こらなかった。
I could not empathize with her.
子供(こども)を持(も)ったことのないその時(とき)の私(わたし)は、子供(こども)をただうるさいもののように考(かんが)えていた。
Childless my self, I only saw children as loud littlee creatures.

   
「一人(ひとり)もらってやろうか」と先生(せんせい)が言(い)った。
"Why don’t we take one in?" Sensei said.

   
「もらいっ子(こ)じゃ、ねえ、あなた」と、奥(おく)さんはまた私(わたし)の方(ほう)を向(む)いた。
"Adopt? Well, dear, you know" she said before turning to me again.

   
「子(こ)どもはいつまでたったってできっこないよ」と先生(せんせい)が言(い)った。
"It's not as if we'll ever be able to have one on our own" he said.

   
奥(おく)さんは黙(だま)っていた。
His wife was silent.
「なぜです」と私(わたし)が代(か)わりに聞(き)いた時(とき)、先生(せんせい)は「天罰(てんばつ)だからさ」と言(い)って高(たか)く笑(わら)った。
"Why?" I asked in her place, to which sensei replied with a laugh "divine punishment".


(夏目漱石(なつめそうせき))『こころ』より)
(From Natsume Soseki's 'Kokoro')


CHECK
Q1 「お前(まえ)は嫌(きら)いだからさ」とあるが、どういう意味(いみ)ですか。
      It says "It's because I don't like you," but what does that mean?
An 先生(せんせい)の奥(おく)さんは酒(さけ)が嫌(きら)いだから勧(すす)めないということ。
      That the teacher's wife dislikes alcohol, so she doesn't offer it.

Q2 「私(わたし)の心(こころ)には何(なん)の同情(どうじょう)も起(お)こらなかった」のはなぜですか。
      Why did "no sympathy arise in my heart"?
An  子供(こども)を持(も)ったことがなかったので、子供(こども)はただうるさいもののように考(かんが)えていたから。
      Because she had never had children, she thought children were merely noisy.